愛たい夜に抱きしめて





落ち着き払った声で紫昏くんに言われて、ようやく荒れていた心も凪いできた。


……そうだ。会った日、紫昏くんも言ってたっけ。

家賃はそのまま据え置きさせてもらってるって。



いつもならこんなことで取り乱したりはしないのだけど、あまりにも自分とは次元がかけ離れすぎた住居だったからか、つい平常心ではいられなくなってしまったらしい。

こんなことで心を揺さぶられるなんて、たまったものじゃない。


はやく。はやく、慣れないと。




「乃坂さん、先日渡した鍵を持っていますか?」

「あ、うん。ここにあるよ」




ポケットにしまっていた鍵を見せれば、紫昏くんはホッと安堵したように息をはいた。





「ここはトリプルセキュリティとなっておりまして、その非接触キーがなければ絶対に入れないようになっていますので、失くさないように注意してください」

「は、はあ、」




用語が難しくて、その時は何を言ってるのかまったく理解できなかった。