「……そういうことでしたら、無理にタメ口にしようとしなくても大丈夫です。すみません。僕の配慮が足りませんでした」
ぺこりと頭を下げる紫昏くんに、慌てて頭を上げてもらう。
謝ってもらうようなことじゃなかったし。
「……わたしの方も、すみません。たぶん、すぐ慣れると思うから」
わたしが慣れないと、紫昏くんもきっと気が気じゃないだろうし。
慣れるのは、結構得意だから。
「紫昏くんの敬語も癖だったりするの?」
「……どちからというと、そうしなきゃいけないから、ですかね」
「え、わたしそんなに怖そうに見える……?」
そんな軽口を叩きながら、むっと独特の匂いがする狭い空間に乗り込んで。
それからは、タクシーの車窓から見える景色をじいいっと眺めていた。



