愛たい夜に抱きしめて





「……ええっと、他に何かありますか?……あ、や、あるかな?なければもう各自解散ということで……」

「ああ、すみません。あともうひとつだけ」




そう言って、自分の鞄を漁る紫昏くんに、また諭吉を出されるんじゃないかと身構える。

……が、それは杞憂に終わる。


というか、どちらかと言うと諭吉の方がよかった。




「…………………、あ、あの、すいません。ちょっとこれの意味が……」




スッと、またまた音もなくテーブルに置かれたそれ。


照明に照らされて、きらんと光り輝くそれは、明らかに、どこかの鍵穴に差し込む鍵だった。




「こちらは乃坂さんの新しい住居の鍵です」

「……はえ?」




ぱちくり。

話についていけなくても仕方がないと思う。


逆についていけてたら、それはもうネタバレ済み案件だろう。




「……え、でも、わたしにはちゃんと家が、」

「その家は、今日の午後に消失しています」

「………エッ、」

「ああすみません。言い間違えました」



心臓を止めるような言い間違えはやめてほしい。