「ですが……」
「ほんっっっっとうに、見返りを求めてお兄さんを助けたわけではないので!わたしの気まぐれですから、紫昏くんが気に病む必要はないです」
「……先ほどから敬語が抜け切れてないですよ」
「あ、」
指摘されて、慌てて口をつぐんだ。
この人相手に、気安い言葉なんてかけらないのに……。
そんなわたしを見て、紫昏くんはゆるやかに目を細めた。
口角はまっすぐのまま保たれていたけれど、なんとなく微笑んでいる気がした。
「今更ながらすみません。兄本人も連れてこられればよかったのですが、あの怪我に加えて、兄は昼夜逆転生活を送っておりまして。今ようやく起床している頃合いだと思います」
「本当に、お気になさらず……」
というか、ここにお兄さん本人も連れてこられてたら、わたし死んでた気がする。
目と脳と声が。



