「かえちゃんか……ステキな名前だね」
瀬良さんは、そう言って「ちょっと待ってね」と呟くとポケットから名刺ケースを出した。
「念の為、連絡先を……これ名刺です」
「ちょ、ちょうだいします」
貰った名刺には想像もしていなかった言葉が並んでいた。
「あの、取締役さん……なんですか?」
「そうだよ、まぁグループ会社のだけどね。本社は兄が社長をしている。だから俺は大したことないよ」
「そんな、すごいです! 社長様なんて、責任あるお仕事されているなんて……私は、普通なので」
社長さんとお茶なんて、なんだか恐れ多くなるんですけど……!
「そんなふうに言ってもらえて嬉しいよ、ありがとう」
そう言って微笑んだ彼を見ると、なんで婚約解消された意味がわからない。
こんなに素敵な人なのに、振るなんてどんな女性なんだろう?
「椛笑さんは、何をやっているの?」
「あ、はい。普通のOLをしていました」
「していた?」
……うん、していた。
昨日までは。



