休憩明けはカンファレンスと呼ばれる打ち合わせ。患者に関する情報を各担当者から報告し合い、共有し合う。その時間帯に勤務している医師と看護師が一同に会する貴重な時間でもある。


それが終われば、再び病室に赴き、患者のケア、体温測定、電子カルテの入力、更には点滴の交換準備といった業務をこなして行くうちに、16時を過ぎ、夜勤のメンバ-がそろそろ姿を現す時間となる。


師長に本日の状況を報告した後は、朝とは全く逆の動きになり、夕礼、夜勤者への申し送り、そして夜勤者と共に受け持ち患者への挨拶に回って、1日の業務が終わる。


「では、お先に失礼します。」


未来が挨拶して、ナースステ-ションを離れ、帰り支度を整えて、職員通用口を出る頃にはだいたい時計の針は17時半から18時の間と言うところだろうか。


その後は、同僚とアフタ-5ということもあるが、この日は特に約束はなく、未来は通用口からほど近い乗り場から、病院から最寄り駅までを随時往復している送迎バスに乗り込む。そして20分ほどバスに揺られることになるのだが、そのちょうど中間地点にさしかかると、さいたまスタジアムが見えてくる。


ワ-ルドカップが日本で開催されるのに合わせて開設されたこのサッカ-場は、地元チ-ムの本拠地であると同時に、数々の国際試合が開催される、サッカ-ファンにとっては聖地の1つ。今日は試合の予定がなく、スタジアムは静かな佇まいを見せているが、4日後にはワールドカップのアジア予選最終戦が予定されている。


(その時には、また大勢の人で賑わうんだろうな・・・。)


スタジアムから最も近い病院であることから、城南大学病院は試合がある日は、スタジアムドクタ-を派遣している。そういうこともあり、職員にも熱烈なサッカ-ファンも多く、同僚の中には今度の試合のチケットを早々に手に入れ、指折り数えて楽しみにしている人もいる。


未来自身もサッカ-は好きだが、人込みが苦手ということもあって、もっぱらTV観戦。その日は夜勤明けで、ゆっくり試合を楽しめるはずである。


(そう言えば、彼は確か明日帰って来るんだったよね・・・。)


ふとそんなことに思いを馳せているうちに、スタジアムは未来の視界を通り過ぎて行った。