じんじんと痺れる頬を撫でると、口元になにかが垂れる感触があった。
 鉄の香りで鼻血が出ていることがわかる。
 私はレポートデバイスで自分の顔の写真を撮ってから、鼻血をシャツの袖で拭った。

 動画を確認しなきゃ。

 ――バッチリ録画できてる。マイク部分につけていたガムテープを外す。動画を再生してみると、マイクは若乃さんの声だけを拾っていた。そして、私が暴行される映像はしっかりと記録されている。

 私の声は、わざと大声を出した「若乃さんが片付けを手伝えって言ったんじゃないですか! やめてください!」という部分しか入ってなかった。ガムテープで細工した甲斐があったというものだ。思わず笑みがこぼれる。

 まだ、これで終わりじゃない。私はレポートデバイスの通報画面を開く。

 
【通報:若乃由香】
【添付:動画2022/0916/1820.mp4】
【添付:写真2022/0916/1836.jpg】

 
『助けてください。脅迫・暴行・殺人未遂の可能性があります。部活動の片づけで呼び出されたあと、体育倉庫で暴行を受けました。顔面、頭部、腹部を怪我をしました。鼻から血が出ています。』

 はやる気持ちを抑えながら文章を確認し、送信する。

 黒い丸がくるくると回る。

「お願い、受理して……」


 急に不安になってきて、ぎゅっと目を閉じて祈った。
 ゆっくり目を開けると、レポートデバイスから通知が届いている。

 ――若乃由香への通報が受理されました。
 ――緊急性が高い報告です。今から保安隊がそちらに出動します。
 ――若乃由香の信用ポイントが下がります。
 ――若乃由香は一定の信用ポイントを下回りました。

 思わずガッツポーズをする。私は体育倉庫から勢いよく飛び出した。