若乃由香。森明美の腰ぎんちゃく。
 ぽっちゃりしているように見えるが筋肉質で、運動神経はいい。
 小学校からずっとバレーをしている。口が悪いし、手が早い。現に、私にもすぐに暴力を振るってきたし。男の人と喋ってるのは……酒井くん以外に見たことないな。

 声は大きいし、他人の気持ちなんて考えずに悪口でもはっきり言う。森さんと一緒にいるのは、森さんの見た目の派手さや細さに憧れでもあるのかもしれない。若乃さんにいじめられてきた子も多く、小学校のときに何人も不登校にしてきたという噂もあった。

 若乃さんなら手っ取り早く、確実に証拠を集められるだろう。

 私はめぐみちゃんや森さん、クラスメイトの嫌がらせに耐えつつ、若乃さんのことを調べた。

 中学でもバレー部に入っていて、比較的真面目に運動はしているらしい。だいたい授業が終わって18時30分くらいまで。そこから帰宅して、19時頃には家に着く。家は一般的な家庭に見えた。小学四年生の弟がいる。


 森さんやめぐみちゃんと一緒にいるときだとやりにくいから……。


 狙うなら、部活が終わったあと。

 若乃さんがひとりになるタイミングまで、待とう。


 そうして、若乃さんが部活をしているときに、体育館裏から様子をうかがうことが日課になっていた。

 体育館は床に近い場所に窓があるのがありがたかった。そこから影を潜めつつバレー部の声を聞くことができるのだ。
 
 耳を澄ましていると、若乃さんと1年生の会話が聞こえる。

「若乃先輩ー、今日どうしても早く帰らなきゃいけなくて……」

 若乃さんの声は、普通にしていても大きいのでよく聞こえる。

「はぁ? 片付けはしていけよ!」

「そんなこと言わないでくださいよぉ! 若乃先輩が当番のときはお手伝いしているじゃないですかー」

「チッ! わかったよ。今日だけだからな。あと今度カラオケおごれよ。あとハンバーガーもな」

 ――来た、チャンスだ。見た感じ、今日は部員も少ない。


 私は事前に用意していた踏み台を使って、窓から体育館の倉庫に侵入する。

 この季節、倉庫の窓は開いたままになっていることがほとんどだった。

 レポートデバイスでカメラ機能を開く。これであとは、リングデバイスの中心を二回タップすれば録画が始まる。倉庫にある棚の上段から部屋全体が映るように、レポートデバイスを設置した。これで、倉庫内ならどこでも映るはずだ。

「あ、大事なことを忘れてた」

 レポートデバイスを手に取り、音声を拾うマイクがある場所にガムテープを重ねる。

「動画だと、自動的に音声も録音されるのが厄介なんだよね」

 これで大丈夫。再度レポートデバイスを設置してから、私は積まれたマットの影に隠れた。

 あとは、若乃さんがひとりになるのを待つだけ……。