「ねぇ、本当に学校に行くの?」

「うん。不登校だと判断されて、これ以上信用ポイントが下がっても嫌だし」

「そう……絶対に無理しないでね。お母さんは、杏里の味方だからね」

「ありがとう。行ってきます!」

 複雑な表情のお母さんに笑顔で応え、私は学校に向かった。
 きっと、きっとなにか手があるはずだ。

 心臓はすでにバクバクと音を立てていた。
 今日はホームルームギリギリに登校できるように調整してみよう。
 早く着くと、また変な絡まれ方をされるかもしれない。
 

 「おはよーっ」

 教室に入るとき、ほんの少しの希望を持って挨拶をしてみた。

 もちろん、返事なんてない。そういえば、横島くんと秋成くんはどう思ってるんだろうか。

 ふたりを見ると、困ったような顔で私を見ていた。

 所詮、その程度の恋だったということか。

 その横で、めぐみちゃんが横島くんにしなだれるようにして声をかけている。

 ――これで最後の希望も消えた。私は、ひとりで戦っていくしかない。

 椅子に座り授業に必要なものを出していると、嫌な感じがした。
 私の横には、森さんと若乃さんが立っていた。

「おはよー。あんた、まだ消えてなかったの? よく学校来れたね」

「おはようございます。色々とご迷惑をお掛けしました。ごめんなさい」
 
 ふたりの顔を見るだけで怒りで腸が煮えくり返りそうになる。

 だけど、今ここで言い返して、そのことで通報されたらまたポイントが下がってしまう。だいたい、なにもしなくても集団で通報されたら終わりなんだ。今は機嫌を取るしかない。

「は? 急にしおらしくなって、きもいんだけど」

「すいません」

 なにを言ってもこうなる気はしていた。

「だいたいね、謝るってのはこうするんだよ!」

 若乃さんは私の髪を掴んで、机にぶつけた。
 おでこより先に鼻に当たってしまって、顔面にしびれるような痛みが走る。

 痛みで目を閉じていても、小さな笑いが耳に入ってくる。私の信用ポイントは27しかない。このポイントは大切にしないと、今は、耐えないと。

「へへ、だっせーの」

 森さんと若乃さんは痛そうにしている私を見て満足したのか、自分の席に戻っていった。

 こんな暴力を振るわれていても、信用ポイントが低かったら意見することもできない。

 早く授業が始まってほしい。そう願ったけど、こんな日に限って、阿部先生は教室に来るのが遅かった。