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久しぶりにセーラー服に袖を通す。スカートのホックがちょっとキツいような気がしたけど、気付かないフリして無理矢理止めた。

「行ってきまーす」

夏休みも終わって今日から二学期、初日から普通に授業があるなんて最悪だ。

「いいなぁ。颯君のところは午前中だけで」

いつもはバスケ部の朝練で私より早い時間に学校に行く颯君だけど、今日は途中まで一緒に登校中。

やっぱり、見上げるほど背が高い。高身長イケメンバスケ部でしかも弟属性とか、モテる要素しかない。

「授業あるとかキツいな」

切り立ての髪が、爽やか度をさらにアップさせてる。

「まぁ俺も午後から普通に部活だけど」

「ねぇ、颯君。今度バスケ教えてよ。秋になったらクラスマッチがあってさぁ」

「いいけど、俺容赦ないよ」

「頑張ります先輩!」

「同い年じゃん」

目を細めて笑う颯君は、やっぱり可愛い。最近はリビングでもよく一緒に話すし、高一男子なのにスレてない感じが好印象。

「颯君って、優しいよね」

ついまじまじと横顔を見つめてしまう。

「なに、急に」

「だって、いきなり同い年の女子と一緒に住むのとか嫌でしょ?でも、颯君は普通に話してくれるし」

「それは…だって…」

「家族が増えたって思ってくれてるんなら、私も嬉しいよ」

そう言って笑ったら、なぜか颯君は俯いた。

「…俺二人が結婚する前に、店に食べに行ったことある」

「店って、ウチのラーメン屋?」

小さく、コクンと頷く。

「そん時俺財布忘れて最悪だったけど、小夏が代金はまた今度でいいって言ってくれた」

「そういえば、そんなこともあったような…あれって、颯君だったの?確か眼鏡かけたお客さんだった気がするけど」

「母さんの結婚相手、見に行ったから」

「もしかして変装のつもりで…?」

陽子さんの再婚相手が気になって店まで見にきちゃうとか、めちゃくちゃ可愛いじゃん颯君。

「あの時からずっと気になってた」

下を向いてた彼が、不意に私を見る。その視線が妙に熱っぽくて、心臓が跳ねる。

「俺は小夏のこと、家族だとは思えない」

「え、あの…は、颯く」

「…ごめん先行く」

颯君はそう言って、足早に去っていく。残された私は、あまりの衝撃にしばらくの間そこから動くことが出来なかった。