それから福間さんは、並んでいるドレッサーの一つに私を座らせた。

「あの、私が福間さん独占しちゃってますけど、大丈夫なんですかね…?」

たくさんの高校生達で賑わう教室を見回しながら、申し訳なくなる。普通なら、こんな風につきっきりで教えてもらったりはしないと思う。

福間さんは笑いながら、また私の頭をポンポンと叩く。

「ちゃんと話通してるから、お前はなんも心配すんな」

「でも…」

「今日の為に俺、昨日めっちゃ働いたの。そんな長時間じゃねぇし大丈夫だって」

「あ…はい」

福間さん、私の為に色々考えてくれてたんだ。後でまた、ちゃんとお礼言わなきゃ。

「髪触んぞ」

「はい」

福間さんが、コームで私の髪を梳かしていく。

私が通ってる美容院は、切ってくれるのは女の人だけど、シャンプーやブローは男のアシスタントさんがしてくれたりする時もある。

その時は全然ドキドキしたりしないのに、今日はただ髪の毛梳かされてるだけで心臓が煩い。

「このレイヤーの入れ方上手いな、お前の癖に合わせてある」

「そうなんですよ!私いっつも片方だけハネちゃうんですけど、ここの美容院に変えてからは乾かすだけでいい感じに整うんです」

「髪ってさ、結構重要じゃん?そりゃアレンジすればどうとでもなるけど、毎日時間かけてらんねぇし、いかに手軽に自分に合わせれるかってことなんだよな」

「確かに…」

「俺もいつかそうなりてぇんだよ。コイツに切ってもらうと毎日朝が楽だって」

器用に私の髪をクルクルと捻りながら、福間さんがそう口にする。鏡越しに見る彼の表情は凄く真剣で。

その瞳に凄くドキドキして、パッと視線を逸らした。