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とある日の平日夜八時。今日はお客さんも少なくて、お父さんは上にご飯を食べに行った。チャーハンの注文がなきゃ、私でも対応できるからね。

「うーっす」

「あ、福間さん」

「よ、小夏。久しぶりだな」

「先週も来てたじゃないですか」

「今週会うのは初めてだろ?」

「まぁそうですけど」

「だろ?俺正解、お前不正解ー」

「なんですかそれ」

呆れ顔の私に、福間さんはニカッと歯を見せて笑った。いつもの大きなバッグを横に置いて、私の目の前のカウンターにドカッと腰掛ける。

「今日も学校、お疲れ様でした」

「マジ疲れた。頭使うの無理だわ」

「でも最近はいい感じなんじゃないですか?」

「は?なんで?」

「お店に来る時の顔が、前より明るい気がするから」

大したこと言ったつもりはないのに、福間さんは目をまん丸にした。

「俺やっぱ小夏好きだわ」

「真面目な顔で言うのやめてくださいよ」

「お前なぁ、それが仮にも保留にしてる男に言うセリフかよ」

「福間さんこそ、ノリで告白したみたいな言い方したくせに」

「そうだっけ?」

福間さんがおかしそうにするから、私もつられて笑った。

「注文どうしますか?」

「チャーシューの大盛りで」

「了解です」

私は麺器のガスのツマミを捻って、そこに麺を入れた。

「なぁ小夏」

ラーメンをおいしそうにすすりながら、福間さんが目線だけを私に向ける。

「なんかお前、変わった?」

「え、太りました?」

「かもな」

「…思ってても口に出すもんじゃないですよそういうのは」

相変わらずデリカシーないなこの人は。

「上手く言えねーんだけどさぁ。なんつーかこう、顔つき?前のガキ丸出しさが減ったっつーかなんつーか」

「ちょっと、フォローになってませんけど」

「上手く言えねーんだからしょうがねぇだろ?うん、やっぱあれだな。太ったなお前」

「…」

この野郎。体重変わってないぞ。

「でも俺、いまの小夏さらに好みだわ」

「はいはい、最後に持ち上げありがとうございまーす」

「いやマジだって」

あっけらかんと言う福間さん、腹立つけど憎めないんだよなぁ。