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「小夏ちゃん、可愛いねその格好」

今日は土曜だから、陽子さんは仕事が休み。いつも部活の颯君も珍しくリビングに居て、私に目を向けた後なぜかパッとそっぽを向いた。

「へ、変じゃない?」

無難な服しか持ってなかった私の、最大限頑張った自称オシャレコーデ。

緩めの白い半袖ロンTに、タイトめのブラックデニム。スポーツブランドの黒いボディバッグに、髪の毛は後ろに緩く纏めた。出かける時にベージュのキャップを被って黒のウェッジソールサンダルを履く予定だ。

フリフリのトップスもヒラヒラのスカートも、クローゼットの中には一枚もない。

「お化粧もしてる?」

「ちょっとだけ」

「映えてる、可愛い」

ふんわり笑ってくれる陽子さんに、私もつられて笑顔になった。

「お友達とお出かけ?どこ行くの?」

「水族館だよ」

「いいなぁ、水族館。随分行ってないから久しぶりに行きたいなぁ。ね?颯」

「…俺は、別に」

「颯君は、あんまり興味ない?水族館」

「いや、別にそういう訳じゃ…」

「今度また、皆でどこか行こうね」

「…ん」

颯君は小さく頷いて、テーブルの上に置いてあったコーラのボトルを手に取ると、プシュッとキャップを開けて勢いよく喉に流し込んだ。

「気を付けていってらっしゃい」

「ありがとう」

陽子さんに挨拶した後、玄関でサンダルを履いていると、不意に後ろから声をかけられた。

「颯君、どうしたの?」

まさかわざわざ、見送りに来てくれたとか?

前に二人でお肉を食べてから、颯君はどことなくよそよそしい。でも嫌われてるようにも見えないし、私も普段通りに接してる。

「友達って」

「え?」

「もしかして彼氏…とか?」

「え!」

玄関の壁にもたれかかりながら、言い辛そうにモゴモゴと口にする颯君。私は慌てて否定した。

「違うよ!そんな人いないし!」

「マジ?」

「マジ!」

わざわざ言わせないで!

「ふぅん」

なんだその笑みは。勝ったという勝利の笑みなのか?いや、颯君に彼女いるか知らないけどさ。

「その服似合ってる」

「え?」

「か、可愛い」

あからさまに顔を赤らめた颯君は、まるで女の子みたいにパタパタと部屋へ戻っていく。

なんだったの一体…というか可愛いのは君だから。