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藤君と付き合って、もう一ヶ月が経った。すっかり夏はどこかに消えて、地面には赤や黄色の葉っぱが落ちてる。

「映画、よかったね」

「うん!最後ジーンとしちゃった」

付き合って初めての休日デート。私達はしっかりと手を繋いで、さっき見た映画の感想を言い合う。

手を繋ぐって最初はソワソワして落ち着かなかったけど、一ヶ月経った今でもやっぱりまだ落ち着かない。

「小夏ちゃん、お腹空いた?」

「そうだね、ちょっと空いたかも」

いつの間にか小夏ちゃん呼びに変わり、その度に私は心臓をときめかせてる。

この名前が、なんだか凄く特別に感じる。

「藤君は?」

ちなみに私は、未だに「諒太郎君」って呼べないチキンです。

「俺も空いた。夕飯時だしちょうどいいかもね」

「じゃあ、どっかお店入ろっか」

そう口にした私に、藤君が意外な提案をした。

「小夏ちゃんちのラーメン屋、行ってみたい」

「えっ、ウチ!?」

「ダメ?」

ダメじゃないけど、デートでチョイスする店ではない。

でも、藤君が言ってくれたのはちょっと嬉しい。それにその、遊んでほしそうな大型犬みたいな表情されたら、たとえば今すぐ逆立ちしろって言われても断れない気がする。

「藤君がいいなら、いいよ」

「やった」

そう言って笑う藤君には夕日さえ味方して、彼の後ろでキラキラ光ってた。




「いらっしゃ…ってなんだお前か」

「なんだとはなによ。ヒマそうだね」

「余計なお世話だよ…って、ああ!」

ドアを開けると、チリンチリンと鈴の音がした。お父さんは藤君に気づいた瞬間、目をまん丸にした。

「同じクラスの藤諒太郎君」

「初めまして、藤と言います。小夏さんとお付き合いさせていただいてます」

「お、おお…どうもどうもご丁寧に」

藤君と付き合うことになった時、私はすぐ陽子さんに報告した。

そのついでで、お父さんにもサラッと言っておいた。