「いらっしゃいませ」



“映画カフェ”の看板が提げられた重たい扉を開けると、今日も君は優しい笑顔を浮かべて私に声をかけた。



「抹茶の温かいの一つ、お願いします」


「はい。今日寒いですからね」



代わり映えを知らないような注文をして、一言二言当たり障りの無い会話を交わす。



いつもはそうだった。



でも、今日は人手が足りていないのか、飲み物を渡してくれるのもその店員さんで。



「お待たせしました。熱いのでスリーブは10分程してから外してくださいね。
いや、20分?30分でも……」



どうして知ってるんだろう。外さなくてもいいスリーブを外すこと。



ここのお店のスリーブが可愛くて、毎回違う柄で、つい集めてしまうんだ。



…それもそうか、週に一度通ってたら朧気でも顔覚えてるよね。



「あの…具合悪かったり、しますか?」



こっちから話しかけるなんて、ここに通い始めてから初めての事だけれど、どことなく焦っているような姿に思わず声をかけた。



「いえ!ごゆっくりどうぞ」



にこやかに、それでもどこか落ち着かないような彼に首を傾げる。



いつの間にかどんどん並んでいく列。後ろが詰まりそうで、それ以上は聞けなかった。