「アスラン、あなたはどうしてここにいるのですか? 要塞にいないと心配されますよ?」
 するとアスランは鼻面をリズのスカートのポケットに押しつけてくる。中に入っているものを取り出せば、それは六芒星が刻まれた孔雀石――守護石だった。
 守護石を見たリズはアスランがどうしてここまで来ているのか悟った。ずっと教会から帰ってこないクロウを心配して要塞を抜け出してやって来たのだ。

「アスランはクロウさんに会いたいの?」
 尋ねると尻尾を揺らしながら頷いた。
「だけど、アスランを教会へ連れて帰ったら司教様たちがびっくりすると思います。……どうしましょう」
 うーんと唸っていると、アスランが「キュウウ」と悲しい声で鳴いてくる。捨てられた子猫のような瞳をしていて、益々庇護欲をかき立てられた。

「ううっ、そんな声で鳴かれたら良心の呵責に耐えられませんよ」
 困り果てていると、イグニスが口を開いた。
『リズ、アスランを連れていっても問題ないよ。彼は魔物じゃないから』
「えっ? そうなのですか? ですがクロウさんは魔物だと仰っていましたよ」
 イグニスはきっぱりと否定する。

『魔物の額にも核があるけど彼らの核の色は赤色をしている。だけどアスランの核は青色だ。赤毛が魔物と言っていたのは多分核があるせいだと思うけど、そもそも彼は魔物じゃない』
 イグニスがアスランのことを「彼」と呼ぶので、どうやら男の子らしい。そしてアスランが魔物ではないなら一体どういった生き物なのだろうか。魔物と動物の違いは額に核があるかどうかで見分けがつく。