不安を抱いているといつの間にか現れたヴェントが肩に留まると優しく頬を撫でてくれる。
『落ち着いてリズ。心配いらないよー』
『大丈夫なの。あの子には前にも会っているの』
 もう一方の肩にはアクアとイグニスがちょこんと座っている。

(前にも会っている?)
 それは一体誰だろう。
 怖がりながらも、リズは一歩前へと足を踏み出し、音のする方へと近づいていく。
 そして、茂みの中を覗き込むと同時にそこから白い塊が飛び出してきた。リズは白い塊にそのまま押し倒されてしまう。
「きゃああっ!」
 びっくりして悲鳴を上げるも、ふわふわとした柔らかい毛が頬に当たる。
 真っ白な毛並みにお日様の匂い。そこからリズはこの生き物が何であるのかを言い当てた。

「アスラン!」
「キュウン」
 それはクロウが飼っている不思議な魔物、アスランだった。相変わらず人懐っこい性格で敵意はまるでない。
 リズはアスランのたてがみに顔を埋めると、存分に頬擦りをした。
「アスランの毛並みはなんて素敵なのでしょう。嗚呼、相変わらずふわふわで気持ち良い~」

 アスランもリズに会えたことが嬉しいようでゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。それから一頻り毛並みを堪能させてもらったリズはどうしてアスランがここにいるのか不思議に思った。
 何故ならアスランは平生、要塞で暮らしている。脱走してここまで来てしまったのだろうか。
 しかしアスランは人間の言葉をよく理解している賢い魔物だ。ここまで来たのには何か訳があるはずだ。