(樹海で出会った頃と同じくらい元気なクロウさんに戻って良かったです)
 朝食を食べ終わりクロウと別れた後、リズは洗濯籠を洗濯場に戻してから昼食の準備を終わらせると作業部屋にいるメライアに声を掛ける。

「メライア、一緒に森へ行って木の実を摘みに行きませんか?」
 メライアは聖書の写本を作っているようで、声を掛けると動かしている手を止めて顔を上げた。
「まあリズ。とっても素敵なお誘いだこと。でも私はこの章を今日中に終わらせないといけないのよ」
 メライアは残念そうに写本へと視線を移した。
 リズが背伸びをして作業台の羊皮紙を覗き込めば、読みやすい綺麗な文字と芸術的な装飾文字が並んでいる。メライアが任されているのは装飾文字のようで、書き込まれた部分のインクはまだ乾いていなかった。

「そうですか……。大事なお仕事なので仕方ないです。頑張ってくださいね」
 応援の言葉を掛けると、突然メライアが呻き声を上げて胸に両手を当て、立ち上がるとリズの肩を抱く。
「嗚呼、今度は必ず一緒に行くと約束するわ。……はあ、可愛いリズの誘いを断るなんて罪悪感に苛まれそう。いいえ、仕事を応援してくれているのだから気持ちはありがたく受け取るべきで……」
 メライアは暫くぶつぶつと独り言を呟く。暫くして咳払いをすると、彼女はリズに言った。

「とにかく、写本作業は早めに終わるように頑張るわね。一応伝えておくと、修道院裏から要塞に続く森は安全だからリズが入っても大丈夫よ。この時期だといろんな木の実が実っていると思うわ」
「わあ、本当ですか? それはとても楽しみです!」
 話を聞いてリズは胸を高鳴らせた。
(王都と違ってスピナには森があります。きっと新鮮な木の実がたくさん採れるに違いありません!)
 リズは支度を済ませると息を弾ませ、スキップしながら出かけた。


 森の中は木々が生い茂っているが、枝葉の間から木漏れ日が差していて明るかった。小鳥がさえずりながら枝と枝の間を飛び、野ウサギやリスが駆け回っている。

「わあっ!! 野ウサギを見るのもリスを見るのも初めてです。とっても可愛い~」
 つぶらな瞳の小動物を目撃してリズはきゃあきゃあと大はしゃぎしてしまう。

 可愛いもふもふな動物が好きなので十七歳の姿だったとしても今のように黄色い声を上げているはずだ。
 小動物はリズの存在に気がつくとぴゅーっと走り去ってしまう。

「ううっ、やはりアスランのようにはいかないですね。彼らは野生で警戒心も強いので近づくことすらできません。触ることができないのはとても残念ですが、この目であの可愛らしい動物を見られたのですから眼福です」
 あまりの可愛さに胸が苦しくなって何度か深呼吸をするリズ。