リズは穏やかな低い声を聞いて一安心した。
「次からは気をつけます」
 それを聞いてフッと笑みを零すクロウは空いている手で脚立を畳んでひょいと持ち上げる。それからどこに置いてあったのかをリズに訊くと元の位置に戻してくれた。

「さて、これで一仕事終えたな。お疲れ様リズ。……リズ?」
 不思議そうにこちらを眺めるクロウに対して、リズは頬を真っ赤に染めていた。今になってこの状況を意識してしまい、心臓がドキドキする。


(最近、なんだかクロウさんとの距離が近くなった気がします……)
 彼は小さな女の子にする真っ当な態度を取っているだけ。別にセクハラをしている訳ではない。
 だが、十七歳のリズからすれば歳の近いクロウの顔が間近にあるので否が応でも意識してしまう。

「そ、そうだお兄さん、朝食の準備ができているので一緒に食べましょう」
 身じろいて地面へと飛び降りたリズは小走りで厨房へと駆けていく。そして厨房に入ると一度深呼吸をしてから気を引き締めた。