教会本部で何かが起きていることは間違いない。十中八九、それが原因で教会本部からソルマーニ教会へ聖力のある司教がすぐに派遣されず、中途半端な状態になっているのだ。
 通常であればもっと手際よくその日のうちに司教が派遣される。
 クロウはウィリアムに挨拶するとピアスに触れて通信を切った。

 ウィリアムからの密命は教会内部に潜り込み、不正を暴くための証拠集め。本来ならサラマンドラに配属されて教会本部の動向を探るのが一番手っ取り早いが、貴族の嫡男が聖国騎士団ではなくわざわざ教会騎士団に入るのは如何にも怪しい。

 疑いの目を逸らすべく、クロウは自ら辺境地で活動するシルヴァに志願し、害意がないことを証明しなくてはならなかった。隊長になれば数ヶ月に一度、教会本部へ招集されるのでその時に機密文書などの保管室に忍び込んで証拠になりそうな情報を集めている。

 回りくどいやり方だが、お陰で教会本部からはクロウに対する不信感は持たれていない。それにソルマーニ教会の司教であるヘイリーとは長年親交があり、信頼の置ける人物だ。
 彼のもとで行動するのが一番だとクロウは判断している。

 クロウは椅子の背にもたれると、顔を手で撫でた。
(一刻も早く任務に戻らなくてはいけないのに。それができなくて非常にもどかしい……)
 天井を見つめていたクロウは頭を動かして前を向く。そしてふと、バスケットが目に留まった。


 あの中に入っているのはリズが作ったという美味しいご飯。食事も受け付けない身体だったのに、リズの作ってくれたご飯だけは拒絶しなかった。
(今度は何を作ってくれたんだろう)
 興味が湧いて椅子から立ち上がったクロウはバスケットの布を取り払う。そこにはまだほんのりと温かいカツレツ、それにサラダとパンが入っていた。
 小さな彼女が一生懸命ご飯を作る姿が目に浮かぶ。

「……ありがたくいただくよ、リズ」
 リズを思い浮かべながらクロウは目を細めると、テーブルに料理を並べるのだった。