「そのロケットペンダントは後で伝書鳩を送るから、脚に括りつけてこちらに送ってくれ。それにしても手がかりは他にないか? 顔の特徴だけだと調査に時間が掛かる」
 クロウはもう一度ロケットペンダントをためつすがめつして観察した。絵以外に手がかりになりそうなものは特にない。なんとなく、指の腹でペンダントの内側をなぞっていると、爪に絵の端が引っかかって少しだけ剥がれた。捲れた紙を見ると、小さな文字が書かれている。

 ――私の可愛い娘メアリー・ブランドンへ、母ジェシーが捧げる。

 クロウはハッとしてその名前を読み上げた。
「この名前を調べていただければ、きっと行方不明になっている女性が見つかるはずです」
「……ブランドンか。言葉の響きからして我が国民だろう。それほど多い姓ではない。ロケットペンダントを持つくらいだから平民の中でもそれなりに裕福な家庭に違いない。すぐに調べさせよう」
「ありがとうございます」
「結果も出ていないのに感謝するのはまだ早いぞ。君は暫く身動きが取れない。できる限りのことはこちらでしなくてはな。――だが引き続き、取れる範囲で教会内部の不正については探ってくれ。最近どうも教会本部の動きがおかしい」

 ウィリアムによると王都では数週間前に雨乞いの儀式が行われるはずだったのだが、急遽取りやめになったらしい。王家がその理由を大司教に尋ねたが、儀式の準備中に問題が発覚したため中止に踏み切ったと言い、それ以上詳しい理由を教えてはくれなかった。