ピアスの留め具の部分を人差し指で触れたクロウは、居住まいを正す。
「聖国の太陽・ウィリアム国王陛下にクロウ・アシュトランが拝謁を賜ります」

 クロウが耳に付けているピアスはただの装飾品ではない。これは装飾品の形をした通信具で王族が専属の工房で独自に開発させたものだ。一般的な通信手段である水晶とは違い、持ち運びしやすく通信具と疑われない品なので隠密たちの間で重宝されている。

「……クロウ、通信連絡の時くらい挨拶は割愛しろといつも言っているだろう?」
 国王のウィリアムは溜め息を吐くと困った様な声色で呟いた。
「さて、今日私が連絡をしたのは隠密から君が死霊の接吻を受けたという報告をもらったからだよ」
 クロウはばつが悪い顔になった。隠密自体がつけられていることはウィリアムから知らされているが、もう情報が届いているとは。
 まったく、聖国の隠密は仕事が速い。

「任務に支障が出てしまい、誠に申し訳ございません」
「君を責めるためにわざわざ連絡したのではないよ。魔物が多い辺境地で死霊が出たというのが少し気になってね」

 ウィリアムはどうして辺境地で死霊が出たのか不思議に思っているようだ。

 死霊は生きている人間がその場所で殺され、怨念を積もらせることで生まれる。普段から人通りのない国境沿いの廃墟で死霊が出るのは珍しいことだった。

「本来は治安部隊に任せれば良いんだけど場所が場所だ。隣国とのもめごとに発展しないか心配だし、きちんと調査しておきたい。何か手がかりはないか?」
「死霊がいた廃墟でロケットペンダントを拾いました。建物よりもまだ日が浅いので、恐らく死霊が生前持っていた品だと思います。中には女性の絵が描かれているので、この女性の身元が判明すれば、死霊だった女性の情報が分かるかもしれません」
 クロウはロケットペンダントに描かれている女性の特徴について手短に説明した。