「……司教はそろそろ教会本部へ戻られた方が良いのではありませんか? いくらあの一件で聖力のほとんどを失ったからと言ってこんな辺境地に隠居するなど。……先代の大司教であるお父上もさぞ悲しまれていることでしょう」

「隠居生活も悪くはないですし、聖力のほとんどを失ったことに後悔はしていません。尊い命を救った対価として聖力がなくなったのなら、それは本望です。――さて、長居してしまいましたので私はそろそろお暇します。バスケットの中にリズが作った夕飯が入っているので召し上がってください。彼女、あなたのことを随分気に入っているみたいで明日からは一緒にご飯を食べたいそうですよ」

 ヘイリーはサイドテーブルに置いていた灯りを採ると、一礼してから部屋を後にする。
 一人になったクロウは腕を組んで思案顔になった。
(リズがもし次期聖女なら何故羅針盤が光らないんだろう。あれが光らない以上、教会側はリズを次期聖女だと断定できない。だが、彼女は対価なしに妖精の力を借りることができる……)

 あれこれと考えを巡らせていると、不意にクロウが付けている右側のピアスが振動し始めた。