「確かに言われてみればそうですね。我々聖国民にとってあの場所がどれだけ大切な場所なのか、小さい頃から教え込まれますから」
 そこでクロウの中に、ある一つの仮説が立った。
「――もしかして、リズの親は教会関係者なのでしょうか?」
 ヘイリーを見ると、彼は複雑そうな表情を浮かべていた。

「私もその線を捨てることができないでいます。メライアによるとリズは聖学の中級までの知識を獲得しているようです。実践向きである上級は流石に知らないようですが……。考えれば考えるほど、彼女は教会との関わりが深いように思えて仕方がありません。したがって、羅針盤が光っていない状態で彼女が次期聖女かもしれないことを教会本部へ知らせるのは慎重になるべきです」
 ヘイリーの意見はもっともだ。
 リズが次期聖女かもしれないという憶測だけで動けば、また彼女の身に危険が及ぶ。どんな理由があれ、我が子を亡き者にしようとした親だ。碌な人間ではないのは明らかなので、このままソルマーニ教会で保護した方が得策だろう。

「もしリズが次期聖女だと羅針盤が告げたなら、その時は教会本部が手厚く保護してくれるでしょう。……それにしても、俺が薬草を採りに樹海に入って保護しなければ、今頃どうなっていたことか。もしもリズが死ぬようなことがあれば妖精の怒りを買っていたかもしれません」
 クロウは額に手を当てて嘆息を漏らす。
 すると、ヘイリーが感心した様子で顎に手をやった。

「ほう。アシュトラン殿は薬草を採りに樹海に入り戻って来られるのですね。あそこは聖職者でも決まった道でなければ恐ろしくて通れないというのに。流石は次期伯爵様です」
 ヘイリーは感心した様子で手を叩くとクロウは咳払いをして話を濁した。

「司教、揶揄わないでください。家柄や爵位は関係ありません。教会本部から届いた調査依頼をしに廃墟へ行くため、その準備に薬草とキノコを採りに行っただけです」
 アスランの存在は他言するなと隊員たちにも口止めしていて、教会関係者には報告を伏せている。害のない魔物だとしても彼は生まれつき魔物だ。危険視されるかもしれないので、たとえ気の置けない存在であるヘイリーだとしても秘密にしている。

 クロウははぐらかすように話題を変えた。