「万が一の時に備えて数年前に聖力を溜め込んで作っておいた加護石を持ってきました。どうぞお使いください。これを肌身離さず持っていれば、死霊や影からは襲われませんし自由に出歩くことができます。ただし、呪いが解けた訳ではありませんので、くれぐれも教会敷地内からは出ないでくださいね。何かあった場合、対応できなくなります」
 人差し指を口元に立てるヘイリーから手のひらに収まる大きさの月長石へと視線を移す。

 クロウはそれを受け取るとそれを大事に懐にしまった。全盛期のヘイリーの聖力が込められているだけあって、石に触れた部分からはほのかに温かみを感じる。
「ありがとうございます。スピナの住人や司教に迷惑を掛けたくないので離れ棟周辺からは離れません。ところで、先程仰っていた死霊が守護陣を破ることはない、といのはどういう意味ですか? 塩と聖水を追加したお陰という訳ではなさそうだ」
 クロウが訝しむと、ヘイリーが部屋の隅にあった椅子を二つ真ん中に運んできて一方に腰を下ろした。続いてもう一方を手で示すので、クロウは大人しく椅子に腰を下ろす。

「ここの空気は今朝よりも澄んでいると感じませんか? それも驚くほど清浄です」
 言われてみれば。クロウはそうだと思った。
 ここに来たばかりの頃、離れ棟内はじめじめしていて吸い込む空気もカビ臭く、少し肌寒かった。しかし今はそれらがまったくない。寧ろ、森の中で新鮮な空気を吸っているようだった。

「これは私の憶測ですがリズに懐いている水の妖精が力を貸してくれたのだと思います」
「そんなまさか。リズは何の対価もなしに妖精からこれほどまでの力を借りられたのですか!?」
 クロウは意外な事実に泡を食った。