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 ヘイリーが離れ棟に顔を出してから、すぐにケイルズがやって来て守護陣の強化を行ってくれた。そのお陰なのかは分からないがそれ以降、影が室内に侵入してくることはなくなった。

 今は日が沈み、夜の帳が下りている。窓の外を見ると、昼間姿を見せなかった死霊が現れて、物欲しそうな目でこちらの様子を窺っていた。辺境地とはいっても、呪いの効力によってどこからともなく死霊は集まってくる。
 クロウは相手を睨み付けた。

「もしも守護陣を破って入って来たなら、容赦なく塩の弾丸をお見舞いする」
 手には常にピストルを携帯し、いつでも撃てる準備をしている。
 すると、背後から声を掛けられた。
「――今夜からは死霊が守護陣を破ることはないと思いますよ」
「……っ!!」

 驚いて後ろを振り向くと、廊下には灯りを持ったヘイリーが柔和な表情を浮かべて立っている。
 離れ棟に入ってくる気配がまったくしなかったので、クロウは思わずピストルを向けてしまった。
「司教、相変わらず突然現れるのはやめてもらえないだろうか? 心臓に悪い」
 銃口を下ろすと、クロウは肩を竦めて小さく溜め息を吐く。

 一瞬でも銃口を向けられたにもかかわらず、ヘイリーは肝が据わっているようで顔色一つ変えない。
「修道院と離れ棟を繋ぐ地下の隠し通路を知って良いのは司教だけですからね。あそこを通ってここへ来るので、驚かれるのも無理はありません」
 部屋の中に入るヘイリーはサイドテーブルの上に灯りとバスケットを置き、懐から半透明のつるつるとした月長石を取り出してこちらに差し出してきた。石の真ん中には六芒星が刻まれている。