(やっぱりこのまま黙っておいた方が穏便に済む……のかもしれないです)
 リズが物憂げに考え込んでいると、ケイルズがリズに聞こえない声でメライアに嘆く。

「嗚呼……今までリズはどんな過酷な環境で育ってきたんだろ。こんな手の込んだ料理、あの歳で作れないよ。それに僕らが褒めても全然調子に乗らないし」
「確かにこれだけの腕前なのにリズったら謙虚よね。私だったらもっと図に乗ってるわよ」

 メライアがフォークに刺したポークカツレツを眺めながら眉根を寄せる。
 すると、ヘイリーが二人に顔を寄せて囁いた。
「人には触れられたくない過去があります。記憶を呼び起こしてリズを悲しませるようなことはしないように。二人とも、良いですね?」
 その言葉に二人は真顔で大きく頷いたのだった。



 食事が終わり、リズが長机の上の食器を集めているとヘイリーに声を掛けられた。
「リズ。アシュトラン殿のご飯はありますか?」
「はい、もちろんです。バスケットに詰めて用意してありますよ」

「そうですか。では私が届けに行きますね。夜は妖精や守護石があるとはいえ、闇の力が増幅してリズには危険です。昼間はまだ安全なので、朝と昼はリズが届けてくれますか?」
「分かりました。……あの、司教様。たまにはお兄さんと一緒にご飯を食べても良いですか?」
 リズは躊躇いながらも尋ねた。

 クロウは呪いが解けるまでずっと一人で離れ棟や修道院周辺で過ごさなくてはいけない。自分の空いている時間は、彼が寂しくないよう側にいて何か恩返しをしたい、というのがリズの願いだった。
 リズの申し出を聞いたヘイリーはにっこりと微笑んだ。

「ええ。構いませんとも。その方がアシュトラン殿も嬉しいでしょう」
「ありがとうございます、司教様!」
 快諾してもらったリズは足取り軽やかに食器を洗い場へと運ぶと、洗い場で皿洗いを始めた。