本棚にあった本が風によって吹き飛ばされ、大雨によって全員ずぶ濡れになる。
「待ってくださいアクア、ヴェント。みなさんは悪くないから仕返しなんかしちゃだめっ!!」
 リズが必死に叫ぶと、途端に風と雨がピタリと止んだ。

 なるほど。妖精を怒らせるとどういうことなのか。なんとなく分かった気がする。
 妖精に好かれているリズが泣いた時でさえこうなのだから、愛し子であるドロテアの場合はもっと強大な力が働くのだろう。隣国から一目置かれている理由を改めて実感した気がする。

『だけどリズ、虐められて悲しかったんじゃないの?』
 イグニスから控えめに尋ねられて、リズはきっぱりと否定した。

「ううん。今のはちょっと、感情が高ぶってしまっただけです。だからここにいる司教やケイルズ、メライアを傷つけることは絶対にだめ。みんな私の大事な家族です。イグニス、濡れてしまった室内を乾かすことはできますか?」
『リズが望むなら』

 イグニスは室内を飛び回りながらキラキラとした赤色の粉を振りまいていく。それが床に落ちると、水分が蒸発して瞬く間に乾いていった。濡れてしまった衣服や家具、床なども元通りになった。ヴェントも床に散らばった本を元通りに戻してくれた。

「さて、仕切り直しといきましょうか」
 ヘイリーはパンッと手を叩くと改めて席についた。