ヘイリーは柔和な微笑みを浮かべていて、いつもと変わらないようにも見える。しかし、一度も怒っている姿を見たことがないリズの心臓はドキドキしっぱなしだった。
(悪いことをした自覚があるなら、自分の非を認めて誠心誠意謝った方が良いですよね)
 先に謝ることを決心したリズはヘイリーが次の言葉を紡ぐ前に勢いよく頭を下げた。

「司教様、勝手に一人で離れ棟へ、お兄さんのご飯を届けに行ってごめんなさい!」
 頭を下げているため、ヘイリーがどんな表情をしているのかリズには分からない。
 少しの間を置いて、ヘイリーがゆっくりと口を開いた。

「そのことなら心配要りません。私もケイルズもメライアも怒っていないですし、リズなら離れ棟へ行っても大丈夫です」
「……え?」
 顔を上げたリズはきょとんとして首を傾げる。
 どうして大丈夫だとヘイリーが言い切るのか分からない。それならケイルズもメライアも大丈夫ということなのだろうか。
 分からないでいると、ケイルズが説明してくれた。


「リズの周りにはいつも妖精が飛んでるだろ? それってつまり、妖精に好かれてるってことなんだ。妖精に好かれている人間は魔物も死霊も手は出せない。彼らの報復ほど怖いものはないから」
「妖精に好かれると魔物も死霊も手が出せないなんて初めて聞きました」
「一般的には聖学の教科書にも載っていない内容だから。僕も司教に教わるまで知らなかったんだ」
「そうなんですか。……でもあれ? そうすると、みなさんには妖精の姿が見えているのですか!?」

 リズが目を丸くすると、ケイルズは頷いた。