ところが、副隊長のマイロンも含めて十数人で廃墟に訪れてみると、そこにいたのは魔物でなく女の死霊だった。

 通常、幽霊は充分な聖力がなければ視認することはできない。しかし、怨念が積もりに積もった死霊の場合は聖力を持っていなくても認識することが可能だ。クロウを含む全員が死霊の姿をとらえていた。

 長い髪を振り乱し、落ち窪んだ眼窩(がんか)の底で、激憤の炎を燃やしている。
 女はこの世に未練があると同時に怨恨を抱いているようで、生きている自分たちに気づいた途端、襲いかかってきた。

 一つ、ここで説明をしておくと魔物と死霊の倒し方は真っ向から異なる。
 魔物は額にある核と呼ばれる部分を破壊するか(くび)を落とすことで倒すことができる。対して肉体を持たない幽霊に有効なのは塩の弾丸を霊体に撃ち込むこと。

 禍々しいものが魔物だと思い込んでしまっていたせいで、シルヴァの隊員たちは拳銃を持っていたが塩の弾丸を充分用意していなかった。そのため前線で戦っていた隊員の一人が弾切れを起こして死霊に襲われそうになった。
 クロウは隊員を庇いつつ、塩の弾丸を霊体に撃ち込んだが相打ちとなり、死霊の接吻を頬に受けてしまった。