「あの、ですが……」
「違いますよアシュトラン殿。リズにご飯を作って運ぶよう頼んだのは私なんです。他の聖職者は私を含めて手が空いていなかったので。叱るならどうぞ私を叱ってください」
 廊下から声がして振り返ると、いつの間にか柔和な表情を浮かべたヘイリーが部屋の入り口に立っていた。
 クロウはヘイリーの話を聞いて眉間に皺を寄せる。
「そうだったのですか。しかし、こんな場所に小さな女の子に使いを出すなど筋違いでは?」
「仰る通り。だから私も後を追ってここに来ました。いくら死霊の接吻を受けて日が浅いとはいえ、襲われる可能性もありますからね」
 ヘイリーは反省するように目を閉じると、クロウに詫びた。
それに対してリズはヘイリーに見つかってしまって内心焦っていた。
(どうしましょう。私を庇ってくださいましたが、司教様の顔が怖くて見られません)
 普段温厚なヘイリーに怒られるのは何よりも怖い。
 リズは彼と目が合わないよう視線を泳がせた。
「……リズ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
 リズは上擦った声で返事をするとヘイリーの顔を見た。
「私はアシュトラン殿と話すことがあるので先に修道院に戻ってください。バスケットは私が持って行きます。あと帰るとき、守護陣を踏んで消さないように気をつけてくださいね」
「はい、司教様」
 リズはヘイリーに言われるがまま離れ棟を後にした。守護陣から出たリズは離れ棟を一瞥してから修道院に向かって歩き始める。
(さっきはクロウさんがいたから、司教様は私を叱ることができなかったんだと思います。あとで呼び出されて叱られてしまうかもしれません)
 しゅんとして歩いていると、ずっと側にいるアクアが話し掛けてきた。
『リズ、影を寄せ付けないように私がこの建物内を浄化しておいたの。だからもう影は部屋の中には入って来れないの』