呻き声のする部屋に到着すると、開かれた扉からリズは部屋の中を覗き込む。部屋には黒い人影のようなものがいくつも現れていて、呻き声を上げながらクロウの周りを彷徨っていた。
 初めて見る恐ろしい生き物に、リズは困惑した。

「あれは一体何ですか!?」
『あれは死霊の怨念――影と呼ばれるものだよ。ここには守護陣が張られているから死霊自体は入り込めない。だけど影を飛ばすことで、死霊の接吻を受けた人間を弱らせることができる』
 イグニスが説明してくれたところで、丁度影が一斉にクロウに襲いかかる。

「悪いな。俺はまだおまえたちに魂を喰われる訳にはいかないんだ」
 クロウはピストルを構えると弾丸を黒い影に撃ち込んでいく。

 弾丸を撃ち込まれた影はつんざくような悲鳴を上げながら跡形もなく消失するが、その悲鳴はガラス窓に爪を立てて引っ掻くような音で、リズは堪らず両耳を塞いだ。
 その間もクロウは顔色一つ変えずに的確に影を仕留めていき、漸く最後の一体が消失した。

「……一旦退いたか。日が落ちれば死霊が集まって、そのうち守護陣を破って中に入り込んで来そうだな」
 クロウは舌打ちをしながらリボルバーに次の弾丸を装填する。だが、指から弾丸が床に滑り落ちると同時に彼はその場に蹲ってしまった。

「お兄さん!! 大丈夫ですか!?」
 リズは慌ててクロウの元へと駆け寄った。