リズはクロウの名前を呼んだが、彼の様子を見て言葉を失った。
 クロウの顔色は悪く、目の下にはクマができている。樹海で出会った時の溌剌さが微塵もなく、疲弊しているのが一目瞭然だった。
 クロウは生気のない目を細めた。

「怖がらせてしまってすまない。誰も入ってこないと聞いていたのに気配がしたから。悪い何かが入り込んで来たのかと思って様子を見に来たんだ」
「……そうだったのですね」
 痛ましい姿に心を痛めるリズは声を絞り出して答える。

「それにしてもリズ。君はここに来てはいけない。危険な場所だから早く出ていくんだ」
 クロウは尻餅をついているリズを抱き上げてから、ゆっくりと床に降ろして立たせてくれた。
「危険な場所だと知っています。でも私、お兄さんの役に立ちたくて」
「俺の役に立ちたかった?」
 尋ねられてリズはこっくりと頷いた。

「そうです。それで私――」
 すると、リズの言葉を遮るように奥の部屋から呻き声が聞こえてきた。
 おどろおどろしい声にリズが立ち竦んでいると、クロウが優しく頭を撫でてくれた。

「俺が必ず守るからリズはここにいて。向こうに敵がいるんだ」
「敵って死霊のことですか? だけど、お兄さん一人で戦うなんて……」
 とても疲弊しているから難しいのではないか。

 明らかに体調が悪そうな状況下でクロウが死霊と戦うのは分が悪い。
 せめてパンを一口でもとリズが提案しようとするが、目を離した隙にクロウの姿は消えていた。声のする方へ頭を動かすと、クロウが部屋の中に入っていく姿が見える。

「待って!」
 リズはバスケットを持ち上げると、クロウの後を追いかけた。