『重たいだろうし、もしも水筒の中身がひっくり返ってリズが火傷したら大変ー。だから、僕が浮かせてあげるよー』
「ありがとうヴェント!」
 ヴェントの計らいによってリズは軽くなったバスケットを持って離れ棟へと歩いて行く。

 教会敷地内とはいえ、離れ棟までは結構な距離がある。
 ヴェントが手伝ってくれなければ絶対無事にスープを運ぶことはできなかっただろう。さらにヴェントは人気のない道を案内してくれた。万が一、ヘイリーたちの誰かに遭遇して離れ棟へ行くことが知られてしまったら言い訳が難しい。

 きっと心配されて修道院へ戻るように諭される。しかし、頼もしい味方がいてくれるお陰でリズは無事に離れ棟へ辿り着いた。
 離れ棟は石と木材でできた平屋の落ち着いた造りだった。異様なのは、その建物を中心に石灰で丸い白線が引かれていることだ。円の内部には見たこともない数字や文字が書き込まれて、それは扉や窓など入り口というすべての場所に同じ物が書かれていた。
 恐らく、ヘイリーが施した守護陣だろう。


「これ、踏んで消したら効果がなくなっちゃいますよね」
 線や文字を踏まないように慎重に除けながら玄関に到着すると、リズはふうっと一息吐いて改めて気を引き締める。
 これから行く場所は病人や怪我人がいる場所ではない。呪われてしまったクロウのところへいくのだ。