リズがスピナに来てから二週間が過ぎた。
 王都の暮らしから辺境の暮らしになって変わったことは時間がゆったりと流れていることを肌で感じられることだ。
 王都の教会本部では毎日めまぐるしい一日を過ごしていたが、辺境のソルマーニ教会ではその日できることをすれば良いという方針なのでとてものんびりしている。


 時間があれば畑の水遣り、草むしり、聖学の勉強をするくらいで後は自由時間だ。必ずしなくてはいけないことは、掃除と洗濯。朝の祈りをしに礼拝堂へ行くこと。
 そして――美味しいご飯を作ることだ。

 メライアがリズの作ったレンズ豆のスープを食べたあの日、彼女は興奮冷めやらぬ状態でリズをヘイリーがいる司教室へ連れて行った。そして、リズの料理の腕がどれ程凄いのかを力説し、是非料理担当にと推薦してくれた。
 リズはヘイリーとは初対面だったのでまずは自己紹介も兼ねて挨拶をした。

 ヘイリーは面長な輪郭で、細い目は榛色をしており、白髪の交じった茶髪の初老男性だった。
 話を聞いたヘイリーはこんな小さい子供に厨房を任せるのは危ないと難色を示したが、メライアが水筒に入れて持ってきたレンズ豆のスープを食べると、あっさり納得してくれた。

 リズは自分を断罪した司教のように厳しい人だったらどうしようと始終びくびくしていたが、ヘイリーから醸し出される優しい雰囲気に緊張の糸がほぐれた。