(平和な聖国では戦争は起きません。シルヴァは魔物の討伐が多いみたいですし、もしかしてシルヴァに志願したのは戦闘狂……とか?)
 しかし、クロウのことを思い返してみても戦闘狂な印象はまったく受けなかった。寧ろ優しくて親切な人、というのがリズの印象である。
 あれこれ思案していると、いつの間にか目の前にはほわほわと湯気が漂うレンズ豆のスープとこんがりと焼かれた――少々焼きすぎたパン、ミルクが並んでいる。

 メライアが厨房から持ってきてくれたようだ。
「冷めないうちに召し上がれ。おかわりもあるからね」
「ありがとうございます。それではいただきます」
 リズはスプーンを手に取ると、スープを口に運んだ。


「……っ!?」
「どう? 美味しい? みんなからは不評なんだけど都会暮らしのリズの口に合うんじゃないかしら?」
 口に入れた途端、表現のできない味にリズは言葉を失った。

 美味しそうな見た目とは裏腹にその味は期待を大いに裏切る惨事となっている。スープがたくさん残っている理由はこの味つけのせいだ。
 しかもスープ皿の底から出てきたタマネギとニンジンは焦げ付いているのに、メインのレンズ豆はまだ煮えていない状態だ。これでは誰もお代わりはしない。

(……身体が小さくなってしまったからできることは限られていると思っていましたけど、料理くらいならやれるかもしれません。メライアに代わって私が料理をしましょう。ここに置いてもらう以上、できることをして役に立たないと)
 メライアには申し訳ないが、舌に残ったスープの味をミルクとパンで消すと、彼女に向き直った。

「メライア、もしかして料理を作るのが苦手ですか?」
「うっ、それは……」
 図星を突かれたメライアは顔を真っ赤にさせ、目を泳がせてから俯いた。