「ねえ、メライア。質問なのですが、ここには他に誰がいるのですか?」
 先程から誰ともすれ違わないのが気になって尋ねてみる。
「大きな教会にはたくさんの聖職者がいるんだけど、ここは辺境地だから。私と修道士のケイルズ、それから司教のヘイリー様の三人しか聖職者はいないわ」
「思ったよりも少ないですね」

 思ったことを口にするとメライアが眉を上げた。
「まあ、リズは都会の教会に行ったことがあるのかしら? ソルマーニ教会の聖職者は都会に比べるととっても少ないけど、聖騎士の数は多いわよ。普段は要塞で任務に就いているからあまり顔をあわせないんだけど……確か二十人くらいね。クロウ様はそこの部隊の隊長をしているわ」
「お兄さんからもお話は少し聞きました。隊長さんだなんて凄いですよね」
 すると、メライアがこちらを向いて「ここだけの話だけど」と前置きをした。


「クロウ様個人も凄いけど、その出自も凄いわ。実は彼、聖国のアシュトラン伯爵家出身なの。しかも嫡男だから正統なる後継者よ」
 リズはその名前を聞いてぴくりと身体を揺らした。
(アシュトラン……伯爵家……クロウ・アシュトラン)
 フルネームを頭の中で呟いた途端、あることを思い出した。

 クロウ・アシュトラン――その名前は教会本部で何度か耳にした名前だった。

 通常、貴族の子供なら聖国の近衛騎士団に所属するか教会の聖騎士団でも第一部隊サラマンドラに所属する。それにもかかわらず、彼は第三部隊シルヴァに自ら志願した。
 彼の腕ならサラマンドラの隊長も務まると聖騎士の誰かが話しているのを聞いたことがあったし、どうしてわざわざシルヴァに志願したのか不思議だった。