「……そんな。まだクロウ殿は十九歳のはずなのにこんな大きな子供がいるなんて。……もしや若いうちに羽目をはずしたんですか」
 ケイルズがあらぬ想像を巡らせているので、すかさずクロウが否定する。
「待て待て、違うぞ。というか小さい子に聞かせる内容じゃないし、この子は俺の子でもない。相変わらず想像力が豊かだな。旅先で出会ったんだが身寄りがないから引き取ったんだ。それで面倒を見てもらえないか司教に相談しようと思っている」
「な、なあんだ。そうだったんですね。とんだ勘違いをしてしまいすみません!」

 ケイルズは脂汗を服の袖で拭って安堵の息を漏らす。変な誤解が解けて良かったとリズもほっとした。
 続いて背後から女の人に声を掛けられる。

「こんにちは。とっても可愛らしい子ね」
 振り返ると、そこには籠を下げた修道女が立っている。
 年齢はリズの実年齢より五つくらい上だろう。亜麻色の髪をきつくまとめ、橙色の瞳をしていて、右目下にはほくろがある。

「メライア、丁度紹介していたんだがこの子はリズだ。教会で面倒を見てもらいたいんだが、司教はいるか?」
「その話なら後ろで聞いていました。きっと司教なら快諾してくださいますよ。ケイルズ、クロウ様を司教室へお連れして」
「分かりました。こちらですよ」

 クロウはケイルズに案内されて礼拝堂の方へと移動してしまう。
(あ……お兄さんにお礼を言いそびれてしまいました)
 樹海で倒れているところを助けてもらい、さらにはここまで連れてきてくれた。彼と出会わなければ今頃樹海を彷徨っていただろうし、下手をすれば餓死していたかもしれない。

(いっぱい助けてもらいましたのに、私ったら全然お礼を言えていません)
 しゅんと項垂れていると、メライアがリズの肩の上に手をぽんと置く。

「クロウ様とはこれでお別れって訳じゃないから大丈夫よ。すぐに会えるわ。さあいらっしゃい、リズ。疲れたでしょうからまずはあっちで休みましょうね」
「……はい」
 リズはメライアに連れられて修道院へと歩いていった。