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 初めてアスランの背中に乗った感想は、案外快適だった。
 風の抵抗を受けて目を開けるのは難しいかもしれないと思っていたがそんなことはなかった。さらに言えば、断罪場所として立たされた崖の上よりも遙かに高いところを飛んでいるはずなのにちっとも怖くない。

 眼下には広大な草原が広がっていてぽつりぽつりと羊の群れが見える。草原を通り過ぎると、徐々に集落はなくなっていき、森や山が増え始めていった。
 そしてリズとクロウを乗せたアスランが徐々に高度を下げていく。


「ほら、あれがスピナの町だ」
 リズは耳元で囁きながら前を指さすクロウの説明を受けて目を細める。
 スピナは村と言った方が正しいような小さな町だった。新緑の木々の間から顔を覗かせる石造りの家。珍しい石を使っているのか薄桃色をしていて、山間の色と相まってとても美しく幻想的だ。

 落ち着いた場所だが国境沿いということもあり、町の北には堅牢な要塞が建てられている。クロウによると国境沿いには教会の聖騎士団が配備されているので守りは万全らしい。


 もともと隣国とは仲が良く、侵入してくるのは人間目当てで襲いに来る魔物がほとんどなのだとか。この百年で隣国との関係が悪化して戦争になったことは一度もない。
 聖国の騎士団と違い、教会の聖騎士団は魔物に特化した戦闘に優れている。そのため、他の国境沿いよりも魔物が頻繁に出没するスピナ一帯は教会の警備管轄となっている。
 基本情報をクロウから教えてもらっていると、アスランが町の手前で着陸した。