リズはもともと貿易を生業とするレーベ商会の一人娘だった。
 母は流行病に罹ってとうの昔に亡くなっていて、父と二人で幸せに暮らしていた。

 ところが六年前、父が暴走した馬車に跳ねられて帰らぬ人となった。
 身寄りのないリズは唯一の肉親である母の妹、ドロテアに引き取られた。

 ドロテアは既に聖女として活躍しており、多忙を極めているにもかかわらず、リズを優しく迎え入れてくれた。彼女が暮らしている場所は教会本部内だったが、聖女のために特別に造られた邸はリズも一緒に暮らせるだけの部屋数があった。

 ドロテアは時間を作ってはリズと一緒に遊んでくれたし、家庭教師を雇って充分な教育を受けさせてくれた。
 お陰でリズは立派な女性へと成長した。

 もしドロテアが引き取って愛情を注ぎ、教育を受けさせてくれなければ、きっと今のリズはいない。