教会本部では妖精が見える修道女や修道士の話は聞いたことがなかった。てっきり聖力がある程度備わっている司教以上ではないと見えないものだと思っていたのに。そうではないのだろうか。

「もしかしてお兄さんにも妖精が見えるのですか? でも妖精が見えるのは司教様以上では……」
「俺の目にははっきりと二人の妖精が見えているよ。妖精が許可しない限り声は聞こえないけど」
 クロウは懐から小さな包みを取り出した。中には金平糖が入っていて、二つ取り出すと妖精にそれぞれ渡していく。

 妖精はぱあっと顔を綻ばせると金平糖を大事そうに抱えてどこかへ飛んでいってしまった。
「リズは王都育ちなのか? 都会だと空気が淀んでいるから強大な聖力を持つ司教以上の者にしか妖精の姿は見えない。だが、空気の澄んだ場所だと少し聖力があれば誰にでも見える」
「ふうん?」
 リズは先程聖力に目覚めたばかりなのでクロウの説明とは事情が少し異なった。だが、詳しい事情を説明する必要もないので大人しくクロウの話に耳を傾ける。


 そこでふと、リズの脳裏にドロテアの姿が浮かんだ。
(もしかすると叔母様は妖精たちに私を助けるようにお願いしてくれたのかもしれません。王都だと司教様以上にしか妖精が見えないようなので、タイミングを計れば彼らにお願いしやすいです。そうじゃなかったらあんなタイミングで妖精が助けに来てくれることもありません)

 ドロテアは必ず助けると約束してくれた。
 きっと、彼女が妖精や妖精女王に頼んで自分のことを助けてくれたのだ。