「この玉座は私のためにあるのよ。誰にも渡さない。聖女を引退したら私に何が残るの? 聖女じゃなくなったら私は見向きもされなくなる。誰からも称賛されず、ひっそり惨めな生活をするなんて絶対嫌よ。皆に崇められるからこそ、私には価値があるの。そのためなら、私はなんだってするわ!」
 ドロテアは両手を広げると聴衆の前で演説するように言い放つ。
 彼女の恐ろしい話はまだ続く。

「羅針盤の瑠璃が光って方角を示した時、次期聖女は聖力がまだほとんど宿っていない状態なの。完全な聖女になってしまう前に私が息の根を止めてしまえば、私は聖女の地位に留まることができる。今回リズベットはもう覚醒してしまっているけど、日が浅いからまだ間に合うかもしれない。さあ、あなたも私のために命を捧げなさい。これまでの乙女たちのように」
 ドロテアは樽の上から下りると、壁に掛けられている斧を手に取った。
 それを床に引きずりながらゆっくりとリズへ近づいていく。


「ひっ……嫌っ」
「大丈夫よ、怖くないわ。すぐに大好きな両親の元へ送ってあげるから」
 瞳に狂気の色を孕むドロテアはいつもの美しい微笑みを浮かべると、斧を両手で掴んで振り上げた。
「さようなら。私の可愛いリズベット」