外から射す眩しい光にリズが目を細めているとすぐに扉が閉められる。中に入ってきた人物はゆっくりとこちらに近づいてきた。
「あらあら。リズベットはもう起きてしまったの。もう少し眠ってくれていてよかったのに」
 頬に手を当てて冷徹な瞳でこちらを見下ろすのはドロテアだった。
「叔母様、どういうことか説明してください。あと、これを外して頂けますか?」
「やあよう。下級妖精たちが助けに来られないよう、彼らの苦手な鉄の鎖を巻きつけているんだもの。外したら意味がなくなるじゃない」
 リズベットったら相変わらず馬鹿ね、とドロテアは口元に手を当てて含み笑いをする。

 リズには彼女の意図がまだ分からない。
「叔母様は私を断罪の窮地から救ってくださったのに、どうしてこんなことをするのですか?」
「窮地から救ったですって?」
 ドロテアはアハハッと高笑いすると、側にある樽に腰を下ろして優雅に足を組む。それから、不愉快そうに口元をへの字に曲げた。
「リズベットったら相変わらず脳天気だこと。私はあなたを窮地から救った覚えはないわ。寧ろその逆よ。あなたには死んでもらうために私が聖杯をわざと壊したの」
「っ!!」
 リズは声を呑んだ。


 父が死んでからは親代わりとなって、大切に育ててくれたあのドロテアが、簡単にリズを切り捨てて殺そうとするなんて到底理解できない。
 リズは混乱しながらも努めて冷静な声で言う。
「叔母様は私を引き取ってここまで育ててくれました。家族として今までずっと……」
「そんなの、周りからよく見られるために決まってるじゃない。信者たちに慈悲深くて身も心も清らかで美しい聖女だと印象づけるための大衆操作。本当は子供なんて引き取りたくなかったけど仕方がなく育ててあげたのよ」
 ドロテアはリズを装飾品として扱っていたに過ぎなかった。リズという装飾品で自身を着飾ることで懐が深い人間を演じていたのだ。