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 微かに川のせせらぎがどこからともなく聞こえてくる。
 さらさらとう音でリズが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。
 後頭部の痛みに表情を歪めながらもゆっくりと頭を動かす。

 ここは一体どこだろうか。辺りを見回しても何の手がかりも掴めない。室内はロープや薪、樽が積まれているだけで人が生活している様子はない。屋内外共に人の気配はせず、小さな窓からは木々が見えるだけ。どうやらどこかの物置小屋に閉じ込められているようだ。
 次に視線を下に向けてみると、両手首には楔の形をした鉄の鎖が巻き付けられていた。

 それ以外の拘束は特にされていない。だが、頭が痛くて思うように身体を動かせない。
 一先ずリズは状況を整理することにした。
(……ええっと。私はどうしてこんな状況に陥っているのでしょうか?)
 夢と現実の狭間でリズはぼんやりと考える。
 やがて、気絶する直前に見たドロテアの恐ろしい顔を思い出して意識がはっきりと覚醒した。


「そうです、私は豹変した叔母様に殴られて意識を失ってしまったのでした」
 厨房でドロテアにフライパンで殴られた。あの誰にでも親切で優しいはずのドロテアに。
(私、叔母様に何かしたのでしょうか……。濡れ衣を着せられて断罪された件に関しては大変迷惑をかけてしまいましたが、それ以外で怒らせるようなことをした覚えはありません)
 いくら考えても、敵意剥き出しの彼女にフライパンで殴られた理由の答えが出ない。
 先程から妙な胸騒ぎを覚えるが、まだ現実を受け入れられていないリズは何かの間違いだと自分に言い聞かせる。
 すると、閂が外れる音がして扉が開いた。