『考えてみて。どうして、妖精たちやアスランがリズを好きなのか。妖精はいつだって自由な生き物だから、たとえ角砂糖をくれたとしても力を貸すとは限らないよ』
「そうなの?」
 イグニスの話に、またまたリズは目を丸くする。
 教会本部で暮らしていた時、ドロテアはいつも金平糖を持ち歩いていた。これがあれば妖精たちは力を貸してくれると言っていたので、てっきり甘い物をあげれば誰にでも力を貸してくれると思っていたのだ。

『リズが次の愛し子であることは確かなの。だから私たちはリズを危険から守るの』
『妖精女王は妖精界とこちらの世界の制約によって普段は干渉できないけど、今回ばかりは力を使ってリズを小さくして助けたんだー。一度しか使えない力だから、リズの身体を元には戻せないけどー』
 ここへ来て知らなかった事実が次々と明らかになり、頭の中が混乱し始める。

 リズは片方の手を側頭部に当て、もう片方の手を前に突き出した。
「ちょっと待ってください。どうして女王様は私の身体を小さくしたのです?」
『女王様はなんでもお見通しなの。だからリズ、あの人だけは気をつけて。私たちはまだ手が出せないの』
「アクア、あの人って誰のことですか?」
 しかし妖精たちはリズの問いに答える前に、何かに怯える様な顔つきになって窓の外へと飛び去ってしまった。


「あ、待って。まだ話は終わってません」
 リズが必死に呼び止めるが、既に彼らはいなくなってしまった。
 仕方がないのでリズは思い当たる人物を考える。
 ドロテアは自分を救うために奔走し、最後は妖精や妖精女王に頼んで助けてくれた。となると、妖精たちが忠告した人物は大司教に違いない。
(大司教様は聖杯を壊した罪を私に被せました。女王様はもう力が使えないので助けてはもらえません。そんな状況下で、私がリズベットだと分かれば大司教様は何か仕掛けてくるかもしれません……気を引き締めておきませんと)
 口を引き結んでいると、厨房の扉が開いた。