(そうだ、ケイルズに俺の馬を貸したんだった)
 クロウは唇を噛みしめる。
 早くいかなくてはならないのに。
 気持ちばかり焦り、次の手立てが思いつかない。ここから全力で走ったところで一時間は掛かる。その間に万が一、リズが断罪されてしまったら――。

 クロウは前髪をくしゃりと掴んで自身を叱咤した。
(もっと効率の良い他の方法を考えるんだ)
 ぎゅっと目を瞑って逡巡していると、服の袖を引っ張られる。振り返るとそこにはアスランがいた。
 じっと見つめるその瞳から彼の言いたいことが伝わってくる。
「俺を乗せて要塞へ連れて行ってくれるのか? 頼む、リズが危ないんだ!」
 アスランはクロウの服を放すと、状況を理解しているのか背中に乗るように視線を動かす。

 クロウが背中に飛び乗ると、アスランは助走を付けて空高く舞い上がった。
(無事でいてくれリズ……)
 目の前に屹立する要塞を、クロウはじっと見つめていた。