「これは教会本部内だけの秘密になっているから知らなくて当然だろう。聖杯は夏初めに破壊された。犯人は聖女の姪で、彼女は樹海で断罪されたという報告が上がっている。最後まで彼女は無実を訴えていたようだ」

 その話を聞いてクロウはリズを思い浮かべた。リズと出会ったのは夏初め。
 リズは同じ年頃の子供と比べて、教会や聖学に関して深い知識を持っている。さらにいうと妖精たちから好かれていて、妖精獣であるアスランにも懐かれている。

「陛下、聖女の姪とはどういった人物ですか?」
 クロウは逸る気持ちを抑えながらウィリアムに問うた。
「聖女の姪の名はリズベット・レーベ。シルバーブロンドの髪に青い瞳の少女だ。大層な努力家で真面目で良い子だったらしい」
 それを耳にした途端、クロウは叫んだ。

「リズが危ない! 今度こそ大司教に殺されてしまう!!」
「どういう意味だ?」
 ウィリアムに落ち着くよう促されるがクロウにはそんな余裕がない。

「その聖杯を壊して断罪された聖女の姪は、私の呪いを解いた次期聖女なのです!」
 クロウがそう叫ぶとウィリアムが通信越しに息を呑んだ。
「……すぐに次期聖女の保護に向かってくれ。彼女を死なせるわけにはいかない」
「御意」

 返事をしてから通信を切ったクロウは馬小屋へと走る。ところが、馬小屋にはロバしかいなかった。