そのお気に入りがわざわざメアリーに接触するために地方に行くなんて明らかに変だ。
「つまりメアリーは何者かの目的によって聖騎士から次期聖女だと唆されて利用された挙げ句、殺されたということですね? 本当にメアリーが次期聖女だったならその時点で羅針盤が反応を示しますから」
 ウィリアムは暫く黙ったままだった。二人の間に重たい空気が流れ込む。暫くして彼が重たい口を開いた。

「この間の聖杯の破壊騒ぎを不審に思って密かに大司教の保管室を探らせた。すると厳重に保管されているはずの羅針盤は偽物(レプリカ)だった。聖物の破壊や紛失を考えると、大司教は犯した罪を恐れて第三者に罪をなすりつけようとしていると考えられる。これは私の憶測だが、そのうち大司教は羅針盤がメアリーによって紛失したと公表するだろう。現にこの間、聖杯の破壊騒ぎで罪に問われた少女が断罪された」
 クロウは驚いて声を呑んだ。

「聖杯が壊れたことは陛下からお聞きして知っていましたが少女が断罪されたなんて初耳です」
 そういえば、まだ聖杯が破壊されたという情報がこちら側にまで届いてきていないことにクロウは疑問を抱く。
 辺境地ということもあり、王都にある教会本部からこちらに情報が流れてくるまでにはタイムラグが発生する。だとしても二週間もあればこちらまで情報が入ってきてもおかしくはない。寧ろ遅すぎるくらいだ。

 ウィリアムが呻りながら考え込む。