話を聞いたクロウは率直な感想を口にした。
「陛下、聖騎士は聖職者と同じく許可がなければ結婚はできません。ましてや駆け落ちなんてすれば破門になりますし、教会内部ですぐに情報が共有されますよ」
 すると通信具越しにやれやれと肩を竦めるウィリアムの息遣いが聞こえてきた。

「まったく、相変わらずの朴念仁だな。恋や愛というものは世間体や常識を越えてしまうものだろ」
「一国の王が何を仰っているんですか……」
 クロウが半眼になって答えると、ウィリアムが含み笑いをしてから小さな咳払いをした。

「真面目な話、クロウのところまで情報が共有されないのはおかしいな。それと、ブランドン邸で働く使用人と接触できたからメアリーのことを尋ねてみた」
 使用人は最初こそ詮索されるのを嫌がったが金貨を見せたらペラペラと何でも喋ってくれた。家庭環境が悪かったメアリーは後妻と異母妹の目に留まらぬよう常に息を潜めて暮らしていたという。しかし、聖騎士と出会ってから性格が明るくなると同時に、おかしなことを口走るようになったという。

「おかしなこと?」
「使用人曰く、私は妖精女王に選ばれた。もうすぐ現聖女と交代し、次の聖女として私が聖国と教会の未来を担うことになる、と――。もちろん、家族と使用人は媚びを売ろうとしているだけの虚言だと真に受けることはなかったようだが」
 ウィリアムはメアリーを哀れみ、深い溜め息を吐いた。
 クロウは死霊となったメアリーの最後の言葉を思い出し、頭の中で反芻する。