それならこの十年間次期聖女が発見されなかったのも頷ける。人間、特に聖職者は聖力があるとはいえ、妖精の様に相手の聖気を感じたり、追跡したりすることはできない。誰も次期聖女が分からないからこそ、羅針盤の存在が重要になってくる。
 そして羅針盤が壊れてしまっているなら、次期聖女の訪れを取り零していたことを意味する。
(だが、過去十年の間に次期聖女が現れていたのなら、羅針盤が光らなくともドロテア様自身が自分の力の衰えに気づくはずだ。……ということは、やはりこの十年は次期聖女が現れなかったことになる)
 クロウが自問自答して納得していると、ウィリアムが口を開いた。


「実のところ先日話していたメアリー・ブランドンのさらなる詳細が上がってきた」
 ウィリアムが隠密にメアリー・ブランドンをさらに詳しく調べさせたところ、彼女は行方不明になる前に頻繁に会っていた男と恋人関係だったという。
「それはこの間仰っていた聖騎士のことでしょうか?」
 クロウが尋ねるとウィリアムが答える。
「そう、あの聖騎士だよ。彼はどうやら任期付きで教会に赴任していたんだ」

 任期付きの聖騎士はいずれ期限が切れたら別の赴任先へ赴くか部隊の拠点がある場所へ戻らなくてはいけない。聖騎士が教会を去った後、程なくしてメアリーも姿を消してしまった。当時は二人で駆け落ちしただとか、メアリーが彼を追いかけただとか様々な憶測が近所で飛び交っていたという。
 メアリーは後妻と異母妹から冷遇され、父親からも関心を持たれていなかった。いなくなったところで彼らはなんとも思っていない。
 その証拠にろくに捜索願いも出されていなかった。